スーパーでのまとめ買いは知的労働?20人のN1インタビューから見えたスーパーマーケットの本当の価値
はじめまして、濱坂 愛音(はまさか あいね)といいます。
10X(テンエックス)という会社でN1インタビュー調査をしています。
突然ですが「N1インタビュー」というフレーズに馴染みはありますか?
ご存知ない方、聞いたことだけ...という方は意外と多いのではないでしょうか。
私が所属している10Xは、小売のデジタル化に挑戦し創業よりプロダクトを作り続けている会社ですが、そのプロセスの中で「N1インタビュー」という調査をとても大切にしています。
このnoteでは、直近実施した都内スーパーマーケットに関するN1調査を通じて、以下2つのことお伝えできたらと思います。
・なぜN1インタビューを大切にしているのか?
・10Xが挑戦する小売のデジタル化とは、どんな価値があるのか?
Why N1 analysis
現在の事業の前身である献立買物アプリ「タベリー」の時代から、10Xは代表自らがユーザーに会いに行き、その場でアプリをを触ってもらい、N1インタビューから数々の示唆を得てプロダクトを磨いてきました。
なぜN=1に会いにいくのか。それは以下を明らかにするためです。
・サービスが解決すべき “最も深いペイン”や、"最も刺さり得るユースケース"は何か
・データや行動ログから出した仮説の実証、因果関係
"最も深いペイン"、 "最も刺さり得るユースケース"がわかると、ユーザーがこのサービスを通して解決したいジョブが明らかになります。
ジョブが明らかになると、このサービスが誰の何を解決するものかという軸が明確になり、プロダクト開発からグロース施策まで様々な意思決定の材料になります。
また、"A画面からB画面で45%のユーザーが離脱した"ということがデータ分析でわかったとしても、「なぜ」の因果関係はデータではわかりません。
「ユーザーひとりひとりの手元で何が起きているのか?」
N1インタビュー調査はデータ分析で出した仮説の解像度を上げるために非常に有効です。
参考までにドキュメントをスクショしました。
(これで約1人分ですが、現在社内Notionには100人以上のN1レポートが蓄積されています。)
今回の調査テーマ
さて、今回の調査について。
事の発端は10X社内でとあるスーパーさんが議題に上がっており、
「現状このスーパーをヘビーユースしている顧客は、どんなジョブを抱えてるんだろう?どんなユースケースなんだろう?」と話が上がったところからスタートしました。
10Xは小売のデジタル化に挑戦していますが、現在スーパーマーケット市場のEC化率は3%程度。
およそどんなものでもECで買えてしまうこの時代に、ほとんどの人が"スーパーマーケット"という店舗になぜ足繁く通っているのか。
そこには「食品を買う」以上に根深いジョブが、ユーザーの中にあるのではと考えました。
そのため、今回は
23区の都心型スーパーマーケット店舗は、顧客のどのようなジョブを解決しているのかということをN1インタビューから分析することにしました。
今回はユースケースの深掘りができるように、以下特定のターゲット20名に絞って調査を実施しました。
・東京23区に在住
・中規模程度のスーパー(サミット、ライフ、マルエツ、オオゼキ)のヘビーユーザー
N1インタビューから見えてきたこと
20人へのN1インタビューから、スーパーマーケットが確かに「食品を買う」ことに加えてある役割を担っているという仮説が見えてきました。キーワードは "計画的な買い物からの解放" です。
「計画的な買い物」は知的労働
「計画的な買い物」のためには、何をする必要がありそうでしょうか。
簡単にいえば、家族全員が一定期間で食べるものを予測し、使い切れる量の食材をリスト化することです。
そしてこれを実現しようとすると、、、
・冷蔵庫に何が入っているか
・余っている食材の賞味期限はどのくらいだったか
・献立はどうするか
・作れる時間はありそうか
・家族の体調はどうか
・お弁当など臨時イベントはないか...
”買う食材を決める”作業は、一見シンプルに見えながら不確実性が高く、難易度の高い意思決定が求められます。
今回の調査で見えてきた示唆は、スーパーマーケットはある2つの機能によってこの知的労働からユーザーを解放しているのではないかということです。
1. いつでも行けることが”こまめ買い”を可能にした
ユーザーに、どのようなシーンで店舗に行くのかを細かくと聞くと「今夜に必要な食材をさっと買いに行った」「毎日のむ牛乳が切れていたので帰りに買った」など、来店日から当〜翌日のための商品を頻度高く買う行動が見えてきました。
サミットは自分か奥さんが基本毎日行っている。2日先の献立なんて考えられない。夕飯のメニューを決め、それに必要なものだけを買ってくる。(40代男性)
また別の方のレシートがこちらです。
つまりユーザーは、来店滞在コストが低めの生活動線上にあるスーパーを高頻度で雇用することで、日々忙しい中で先のことを考える知的労働から解放される、という捉え方です。
※来店滞在コストとは、店舗までの移動、店内での商品探し、レジでの支払い、商品の袋詰め、買った商品の持ち帰りなどを指します。
ちなみに...10Xでは都心部以外へのN1インタビューも行っています。
都内では「近さ」が来店滞在コストを下げますが、地方に関しては同じペインに対して「車」という存在がその役割を担っているようです。こちらも同じく、こまめ買いを可能にする機能の1つと考えられます。
なぜ来店滞在コストを許容しているのか
生活動線上にあるスーパーは来店滞在コストが低めと表現しましたが、それでも「レジに並ぶ時間がもったいない」「重たい荷物を運ぶのは大変」「子連れではなるべくスーパーに行きたくない」など、実店舗に行く煩わしさは多々インタビューの中で語られました。
主人と帰宅時間が合わないため基本1人で買い物している。仕事で疲れている中で、帰り道の荷物が重いことが辛い。(30代女性)
数品だけさくっと買って帰りたいのに、そのためにレジにわざわざ何分も並ぶのが馬鹿らしい。休日などはとても混むので行きたくない。(30代男性)
ただ「そのために計画的なまとめ買いを行っているか?行いたいか?」というと、結果的には否です。足りないものを都度買いにいく手段をユーザーは選んでいます。(それは例え乳児を抱っこ紐に入れてでも...)
その後ろの感情には、こんな言葉が出てきました。
まとめて買って食材を腐らせてしまうことを極力避けたい。食べ物を腐らせてしまうと、自分はダメなんだという気持ちになる。「また腐らせたの?」と夫に指摘されたことも。(20代女性)
先に食材を買ってしまうと、仕事で疲れて「今日はお惣菜で済ませたい...」という時でも、作らなくてはいけない義務感が生まれる。(30代女性)
これらユーザーの訴えからもわかるように、ある程度の来店滞在コストをとってでも、計画的に買い物すること、さらにそこで買ったものを計画通りに消費することの難易度の高さが伺えました。
2. 意思決定をサポートしてくれる「売場」の役割
実際にどのようなものを買ったのか?なぜそれを買ったのか?という問いかけの中で見えてきたのは、「何かを目当てに来店し、ついでに必要なものを買う」という行動です。
ユーザーはしばしば、買う食材を「売場」で決め、または変更していました。
先ほど、買う食材を決める作業はシンプルに見えて難易度が高いと書きましたが、調査を進める中で「売場」自体が買い物に必要な意思決定をサポートしている可能性が見えてきました。具体的には以下です。
・壁一面に商品が陳列され、歩くだけで視覚に入る。家で頭を捻るよりも、必要なものが思い出しやすい。
・特売コーナーが大体的にあることで、選択肢が絞られ買うきっかけになる。その結果、献立が決めやすくなる。
・買い物行為しかできない空間の力。スマホやテレビ、時には家族など集中を削ぐものが店舗には少ない。物理的に来てカゴを持つことで、離脱せずに「買い物」を達成できる。
つまり、買い物の知的労働を軽減するというジョブを満たすために、ユーザーは店舗を雇用をしている側面がこの調査より見えてきました。
結論
23区の都心型スーパーマーケット店舗は、顧客のどのようなジョブを解決しているのか。それは、「生活動線上にあるアクセスの良さ」と「意思決定をサポートしてくれる売場」によって、ユーザーは「買い物における計画性」という重たいペインから解放されているいうことです。
一方で、来店滞在コストを訴える声が確かにあり、上記の恩恵を受けたいけれど思うように受けられない人がいることも見えてきました。
デジタルは何をすべきか
冒頭に戻りますが、10Xは小売のデジタル化に挑戦しています。
私たちがまずすべきことは「スーパーマーケットがもつ強みを尖らせながら、来店滞在コストを極限まで下げる」ことだと考えています。
つまり来店や滞在に伴う心理的な障壁、時間的なコストを極限まで下げることです。
またこのご時世、いくらスーパーが好きでも、混雑しがちな場所に何度も行くのに抵抗を感じ始めた方もいるかと思います。小売のデジタル化は、これまでにない大きな社会的インパクトをもたらすと考えています。
10Xではすでにこのチャレンジが始まっており、素晴らしい小売パートナー様とその準備を着々と進めています。
ぜひご期待いただければと思います!
終わりに
長文な中、最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後もN1調査やそれ以外のトピックもつらつら残していけたらと思いますので、また読んでいただけると嬉しいです。
最後に、20人のインタビューご協力者様、そしていつも私の仕事を応援してくれる夫に感謝を沿えて終わりにします。
ありがとうございました!
※もし10Xのチャレンジにご興味がある方がいたらお気軽にコンタクトお待ちしています。業務委託でN1インタビュアーもbosyuしておりま〜す!
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